Windows Rockの住人
タバコ一本くれと言ってきた、ネイティヴアメリカンは、明らかに酔っていた。しかし、格好はいかにもという感じで、全身ビーズをあしらった黒で決め、サングラスをかけ、エンターテイナーさながらである。
ヒマを恐れるせっかちな僕は暇つぶしのつもりで、タバコを差し出した。
彼は喜び、僕の隣に座った。間髪いれず、そいつは色々と聞いてくる。何してるんだ、どこから来た、云々。これまでに気がついたのだが、ネイティヴアメリカンたちは、みんな話が好きだ。誰でも彼でもその調子。ところが彼は風貌もさることながら、昼間からかなり酔っているので、どうも地元の人たちも避けているようだった。だが、まあ、いい。
彼の身なりは、さっき話した通りだが、よく見ると彼の拳は血だらけで、それが乾いてボロボロになっていた。僕がどうしたのか尋ねると、
「わからないんだ、自分でも。夜になると無性に腹が立って、気がつくと壁を殴ってる。来る日も来る日も。」
かさぶたから微かに見える白いものが骨であるのに気づくのにそんなに時間はかからなかった。
彼らはどこかいつも悲しみを帯びている。それは一体どこから来るのか。街のあちこちで見かける彼らは、いたって普通のアメリカ人である。英語で会話するし、着ているものもアメリカ人そのものだ。だけど、白人にあって、彼らに無いものがある。
ーそれは、希望 。 人として当たり前のように公平に、ごく平凡に、人生を全うする権利である。彼らにはそれが無い。
つまり、彼らは自分たちの人生に絶望しているのだ。
そんなことを話しているうちに、こっちの身の上話になった。それでここまでのエピソードをかいつまんで話し、”Windows Rock”に行きたかったがバスが無いんだと言うと、驚いた表情で
「Windows Rockだって⁉︎俺の家はそこにあるぞ!じゃあ、すぐ行こうぜ!」
やった!と内心叫んだが、いや、本当に行けるのか?金とかせびられて終わりじゃねーのか。ここで離れておかないと大変なことに…と、様々な不安が心をよぎる。
なんとなく、でもかなり強引に彼は俺を外へ連れ出した。
「さぁ、行こう!」駐車場に出た彼はドンドン歩いていく。
なんだ、車で来てるのか。と安心したのも束の間、ついに駐車場を通り過ぎ、車の行き交う大通りに出たと思ったら、道路を渡りその向こうにあるガソリンスタンドへと走っていく。
やっとの思いで追いつくと、「ちょっと待ってろと」言い残したまま、黒服インディアンは、給油中の運転手に何やら小声で交渉を始めた。
え?これってもしや?
「よし、乗れ!OKだ!」
赤いピックアップの荷台を指差し、俺に乗るよう促す。運転手さんは、片脚がない初老のネイティヴアメリカンで、俺に微笑み、同じく乗れという仕草をした。
ヒッチハイク‼︎ 果たして、大丈夫なのか⁉︎
不安なまま、荷台に乗り込むと、そこには何と先客がいた。それは、またもや、人生に絶望した、酔っ払いのネイティヴアメリカンだった。