アリゾナ州はヒッチハイク禁止
実は、この物語を書き始める前は、パウワウのビデオを共有したかっただけで、他に理由はなかった。でも、いざとなったら、エピソードを交えながら、観てもらった方が良いのではと思って話をここまで広げたのだが、まさか、こんなに長くなるとは自分でも予想しなかった。
でも、折角なので、もう少しだけこの旅にお付き合いいただきたいと思う。
パウワウには、太鼓とファルセットの歌で演奏される曲がセットになっている。ビール瓶は、その曲名や歌の意味をあれこれと教えてくれ、なかなか楽しめた。その傍で、黒服は何やら僕が手に入れたネイティヴアメリカン詩集に落書きしている。まだ、ここにいたいなぁと思ったが、夕暮れが近づいてきている。
「ねぇ、そろそろ帰りたいんだけど、どうやって帰れば良いかな?」
僕はもちろん彼らが、ヒッチハイクでもなんでもして、僕をさっきのモールまで連れて行ってくれるものと勝手に信じていた。
「それは、わからない。なぜなら、俺たちの家はここにあって、今日はもうモールへは戻らないから。」
ガーン!頭に一発重いのを食らったような衝撃だった。どうしよう、もちろん、タクシーもない。電車もバスもない。考えてるうちに、日はドンドン落ちていく。様子を見ていても、やっぱり、彼らは何かをしてくれる感じじゃない。気持ちを切り替えて、立ち上がる。
「じゃあ、行くわ!またね!」
どんなことがあっても、僕らは熱い友情で結ばれているのだ。去り際は、それこそ、電車で一駅ぐらい先に行くような雰囲気である。
彼らと握手をして、そこを立ち去ったは良いが、正直言って、わかっているのは、帰る方向くらいだ。
仕方ない。歩こう。まずは、自分が来た方へ向かって。けれど、行けども行けども、砂漠が続くだろう。考えるとゾッとする。
辺りは暗くなって、どうにもヤバイ感じになってきている。バスの出発時刻まで、それほど猶予はない。ここから一時間は優にかかる距離だ。
歩きながら思い切ってヒッチハイクをしてみるが、誰も止まってくれない。やがて、警官が近づいてきた。
「おい何やってるんだ!アリゾナ州は州法でヒッチハイクは禁止されてる!これ以上、続けると逮捕するぞ!」