ギター少年の子守唄 〜その2〜

「なんだか、カッコいい音楽を知ってるんだね」昼休みに話しかけてきたのは、クラスでも選り抜きの優等生ムコシンだった。

ムコシンは、ちょっと気取り屋だが、勉強も体育もできるクラスのリーダー的存在だ。俺とはタイプが全然違う。2年生になって同じクラスになったが、まだ口は聞いていなかった。彼も音楽にはこだわりがあったようだが、洋楽ヒットチャート止まりで、音楽の時間に彼が用意したレコードはカルチャークラブだった。

「澤田が持ってきたレコードのあの曲、あのバンド、俺、全然知らないんだよ。」

『どうせ、ウルサイ音楽だ。坊主の俺がかける曲なんか興味持てないに決まってる。全く面倒なやつだ。』心の中でそんな風に思いながら、輸入版のレコード屋の袋からおもむろにリリースされたばかりの”Van Halen / 1984” を差し出した。

 

1983年1月発売。僕が手に入れたのは3月くらいだったと思う。

「これ、誰?初めて見たよ!このジャケット!俺、カルチャークラブとかデュランデュランとか好きなんだ!」

「ああ、知ってる。俺も聴いたことあるよ。でもあんまり好きじゃないんだ。俺が好きなのはこういうやつ。」頭の中の『知ってるよ。あのガキどもがキャーキャー言いながら聴く音楽だろ。』という罵声をかき消しつつ精一杯の愛想を振りまいてそう答えた。

「この音楽のジャンルって何なの?」「これ?これはハードロックだよ。」優等生のムコシンは俺に真っ直ぐな目を向けて、「色々教えてくれないか!?頼む!」全く青天の霹靂だった。悪い気がしなかった僕は「もちろんだよ。」と早速、ためにためていた知識をお披露目した。

意気投合した僕らは、お互いの家を行き来する仲になる。そんなムコシンが今一番ハマっていることそれが…

「俺、池田からギター習ってんだ。」

『ああ、何てこった…マジか…。折角、俺の方がちょっと優位に立ってたと思ってたのに…。』

「あ、そうなんだ。それはすごいね。俺、そういうの、ほら、苦手だからさ」

帰ってきた彼の言葉は、残念なことに俺の予想を全く超えないものだった。

「澤田もやろうよ!」

死神にとりつかれている僕は何度も断る理由を考えた。本当は断るに十分な理由も僕にはあった。小学生の時に左手の小指を切断する大怪我を負ったことがあり、どうしてもうまく動かすことができなかったのだ。ギターを弾くにはハードルが高すぎる。でも、そのことを友人には怖くて言えなかった。

「考えとくよ。」

水泳の練習から帰る電車の窓に映る自分を見ながら、流れてくるハードロックのカッコいいギターを聴いていた。『ホントは死ぬほどギターが弾けるようになりたい。Eddie Van Halenにはなれなくても、サイドギターでも何でも良いから弾いてみたい!』心の叫びは止められなかった。体が不自由なことなど、どうでも良かった。僕の心の中にある音楽への思いが決壊した瞬間だった。死神はもうどこかへ行っていた。

 

Edward Van Halen

次の日の放課後、ムコシンに連れられた俺は音楽室にいた。クラッシックギターを手にした生徒たちがそれぞれに練習している。

池田先生は、俺に一本手渡し「ようこそ」と言った。初めてギターを手にした瞬間だった。あの感動は今でも覚えてる。

<その3へ続く>

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