ギター少年の子守唄〜その3〜

「6-3-2-3-1-3-2-3、 5-3-2-3-1-3-2-3…」

呪文のように唱えながら、制服のズボンを指で爪弾く。

「はーるをあいするひーとーはー♪」「イーマイナー、エーマイナー…」

池田先生が最初に教えてくれた曲は、四季の歌だった。全然ロックじゃないが、このシンプルな曲が全然弾けない。けれど、池田先生は最初の法則だけ教えると、あとは何もしてくれないし言ってくれない。友だちが弾くのを見よう見まねでやるだけだ。

ところで、先生は教え方が実に独特な人で、ギターだけで無く普段の授業の時も、例えば何らかの「法則」を伝えて、あとは生徒まかせというスタイル。冒頭部分の「6-3-2-3-1-3-2-3、 5-3-2-3-1-3-2-3…」は、ギターを爪弾く右手のフィンガリングのこと。これを音とともに伝え、あとは何もしない。
他にもアメリカ音階、ドイツ音階、和音階を一発で理解できる「エライ(『A』と『ラ』と『い』は同じ音、あとはスライドするだけ)」の法則。「君たち、難しく考えなくて良いよ~、エライの法則だけ覚えれば、すぐわかるからね~」とこんな調子で伝えるとあとは放っておく。(このエライの法則は本当に良く出来ていて、今現在も僕が考えるときのデフォルトになっている。)

こんな感じで、入口以外なにも教えてもらえず、あとは自力で取り組むしかないのだが、これがかえってはまるきっかけになった。頭の中を同じフレーズが何度もリフレインする。授業中も、通学中も、水泳の練習中も、寝るときまで。いつだってギターのことを考えていた。

そういえば、それだけではない。何もしてくれない先生は、僕がギターを今も弾き続け、なお夢中でいられる理由でもある。なぜなら、先生は僕のギターを褒めたり、けなしたりしなかったから。つまり、決して評価しなかったのだ。「出来る、出来ない」という他者からの評価におびえ、いつも取り組む前にあきらめていた少年にとっては、これは何より価値があったことだったと今になって思う。(先生、本当にありがとう。)

2016-02-25 13.11.29

こんな子。髪は伸びてる。中3。

 


さて、クラッシックギターは、知っている人は知っているが、いわゆるガットギターというやつで、指で爪弾くのに適する構造でネックが太い。(参考-ヤマハ)だから、ロックを弾くなんてとんでもないのだが、今を懸命に生きる中2の僕にとってはどうでも良いことだった。

写真はイメージです。

その構造ゆえに、ロックだとか、バンヘイレンだとかとは全く無縁のもの。音も柔らかくて丸くて、エッジの効いたハードロックのギターとはまるで違う。でもこの先にそういうものがあるに違いないと、勝手に思い込んで、知らず知らず夢中で練習していた。

これもクラッシックギターあるあるだが、習い始めて一年経っている連中は誰もが知るある名曲へと進んでいる。そうインストのあの曲だ。

禁じられた遊び/ナルシソ=イエペス

トップを走るムコシンは、もう2番のフレーズを練習し始めていた。これは悔しかった。しかも「小指」から始まる。個人練習しないと追いつけない。

ある日学校から帰った僕は、お袋にあるお願いをした。

「ギターが欲しい」

池田先生のギター教室に行き始めたことも伝えてなかったから、お袋さんはちょっと戸惑い気味に「どういうのが欲しいの?」と聞いた。

「木でできていて、真ん中に穴が空いてるやつ。」「いきなり買うのはどうかと思うから、知り合いに聞いてみるよ。」「わかった。頼む。」

思春期の男の子が、母親に多くを語ることはない。だが、この短い会話のほんの少しの間違いが大きなきっかけになった。

「知り合いのおばさんが、もう使わないからあげるって。」

家に待望のギターが来た!これで、ムコシンに追いつける!早速、練習だ!

と、学校にあるギターと同じ感じで弾き始めると、『オヤ?何かが違う。これ、弦が錆びてるぞ。クラッシックギターは、ナイロンだから錆びることないのに…』

入手したのは、多分これだったと思う。YAMAHA FG-201

お袋がもらってきたのは、フォークギターだったのだ。でも、仕方ない。これで練習を始めた。サビサビの弦で指が痛い。クラッシックギターと全然違う。血が出そうなぐらい痛かった。

夢中になると面白いのは、そもそも何がしたかったのか忘れることかもしれない。もうロックどころではなく、四季の歌を弾くことが最大の目標になっていた。サビサビ弦と格闘の末、再びお袋さんの前に立った僕はダメ元でこう言った。

「違う。これじゃないんだ。もっと弦が柔らかくて、鉄じゃないやつが欲しいんだよ。ボディが小ぶりでネックの太い…」「あーそう。わかった。聞いてみるよ。」

あるところにはあるもので、同じおばさんがクラッシックギターを持っていた。一昔前にフォークブームがあって、そこいら中にギターを練習した人がいて、あちこちで廃品回収行きか、物置行きになっていた時代だったらしい。
ギター教室の看板が電柱や踏切に貼ってあるけど、教室がどこにあるかは誰も知らない時代。僕は一気に2本のギターを手に入れた。

 

写真はイメージです。。

とにもかくにもこれで何とかなる。さぁ、練習だ。 ギターの音色はとても心地よく、とにかく四六時中弾いていた。ベッドに横になり、弾きながらそのまま寝てしまうこともしばしば。ギターを抱きながら少年が見た夢は、憧れのギタリスト、ナルシソ=イエペス….だったのか。あれ?

<最終回へ>

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