福島第一原発メルトダウンまでの50年

少し前の話になるが、2016年2月、アメリカンフットボール全米ナンバーワンを決めるスーパーボウルが行われた。50回目の節目となるゲームの勝敗を分けたのは、フットボールの基本中の基本ともいえる、ディフェンスだった。
フットボールは、ディフェンスのギャップ(穴)を見つけて、攻めていく非常に論理的なゲームである。とりわけアメリカンフットボールは、そこが特に強調されている点において、アメリカという国のあり方を良く表している。
アメリカで考えられた多くのゲームは、ディフェンスを考え尽くしたものに勝利の女神が微笑むように作られている。それは、スポーツだけでなく、社会や政治、科学技術にも言えることなのだ。


 

とりわけ、アメリカで開発され、世界中に広められた原子力発電という技術に失敗は許されない。それはすなわち、関わる人全てがそのディフェンスシステム全体を理解し、個別の役割を徹底的にかつ完璧に果たさなければ勝利しえない技術だということだ。

福島第一原発 メルトダウンまでの50年――事故調査委員会も報道も素通りした未解明問題
烏賀陽弘道

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ジャーナリスト烏賀陽弘道、渾身の最新作は、日本の原発がいかにいい加減な論理、穴だらけのディフェンスで動かされていたのか、 時間、空間を丁寧に辿りながら、これまでに誰も検証しなかった全く新しい事実をあくまでも論理的な視点で、次々と明らかにしていく。
本書のまえがきにおいて「私は原発否定論者ではない。」と、断言する筆者ならではの視点。だからこそ求めらているのだとするディフェンスの検証は、実に生々しい。

そして、この視点があればこそ、ヒステリックに原発に反対するのではななく、では、我々はいったいどうすれば良いのかという、未来に向けた議論のテーブルが展開できるのだということを我々は垣間見る。それがすなわちジャーナリズムだ。

完璧なディフェンスについて検証する能力をジャーナリズムが持ち得なければ、市民はこの社会で安心して暮らしていくことなどできない。この社会構造にいったい何が欠けているのかという警鐘。それは、原発に限ったことではなく、我々が生きている限りつきまとう未来につながる社会の構造上の問題なのである。

そのことをはっきりと示した非常に興味深い一節があったので紹介したいと思う。

「そこが原子力特有の物の考え方で、特にマスコミがかなり騒ぎ立てたんですよ。へんな風に歪曲したんです。それで住民が心配しないよう、電力会社とか国が情報を出さなくなった」
- マスコミの歪曲とは、例えば何でしょう?
「反対派は『チェルノブイリみたいな事故が起こるから、日本の原発やめろ』と言ってるわけです。『レベル7の事故が起きうると予測していた』とマスコミが書いたら、住民の反対運動も強まっちゃう。そういうのを恐れるがゆえに、そういう情報を出さない。それが東電や国の上層部の考え方なんです。(後略)」
(烏賀陽弘道著 福島第一原発メルトダウンまでの50年 p.278 より)

この一節は「原発に反対する人たち」とそれを煽る「マスコミ」がいたために、結果的に情報が隠蔽されてしまった経緯がよく理解できる箇所だ。もちろん、私はその人たちを非難するわけではない。「結果的に」そうなってしまい、福島原発事故が拡大してしまう一因にもなっている事実から目を背けるべきではないと思っている。
残念ながら、本書が発行されなければならない状況が端的に示す通り、福島第一原発事故の真相とその責任の所在は5年の歳月が経過した今でも何ら明らかにされていない。およそ23万人が被曝し、10万人が家や土地を失い、故郷を奪われ、10兆円を超えるお金が賠償と除染に消えるという前例のない巨大な事故を起こしてなお、日本はその社会の構造上の問題を置き去りにしたままなのだ。

そんな穴だらけのディフェンスを放置する行政と、感情的で論理を欠いたオフェンシブな政権がイニシアチブを握る現在。我々、市民は何を考え、どう行動すればよいのか。また、監視機能としてのジャーナリズムはどうあればよく、我々はそれをどう守っていくか。

烏賀陽弘道が我々の前に広げて見せたそのテーブルは、あまりにも暗い未来の予兆として、我々の背中に重くのしかかるのである。

 

 

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