
NFLの最古参チームであるワシントンレッドスキンズが、ようやく自身のチーム名はレイシズムを孕んでいると認め、改名に踏切ったというニュースが届いた2020年。日本には音楽映画という形でネイティブアメリカンに関する新しい話題が届けられた。「ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち」である。
アメリカで産声をあげたロックンロールの親がブルーズだということはこれまでも多く語られてきた、音楽ファンなら誰もが知っている歴史である。
その背景には、今でも続く黒人に対する人種差別や過酷な奴隷労働があったというのも周知の事実だと思うが、同じように、いや、それ以上に過酷な運命を背負っていたのがネイティブアメリカンだというのは意外と知られていない。
リザベーション(インディアン保留地)に放り込まれたことで、社会から隔絶させられ、人の目に触れないようにされているからなのかもしれない。あるいは、アメリカ建国の裏にある目を疑うような迫害、虐殺、民主主義から程遠い非人道的な収奪、搾取が存在するという史実を「正義の国」アメリカがひた隠しにしてきたからなのかもしれない。娯楽作品を隠れ蓑にして映画や物語がプロパガンダの機能を果たしてきた結果なのかもしれない。しかし、そういったものが遠く及ばないアメリカの象徴としてのロックンロールは脈々と受け継ぐその血の源流を忘れてはいなかったのである。
ブルーズの父親がアフリカ大陸の民族音楽であり、母親がネイティブアメリカンの民族音楽であることをアーティストとその作品を追いながら歴史的に紐解いていく本作品は、これまでの常識を覆すだけの大きなインパクトを持っている。アフリカのポリリズムとネイティブアメリカンの4つ打ちビートのミックスがロックンロールだというのは、その話を知ってしまった今では他の説をあてがうことが難しいほどだ。またブルーズの祖といわれるチャーリーパットンがネイティブアメリカンであり、彼が用いたメロディはまさにネイティブアメリカンのメロディそのものだと語られる場面は、新事実として大衆音楽史を書き換えるほど重要な意味を持つと思う。
新たに語られるネイティブアメリカンを母親とするロックンロールヒストリーは、彼らが今も受けているいわれのない民族差別や貧困に一筋の光明をもたらすかもしれない。これまで知られてこなかったネイティブアメリカンの過酷な運命を多くの日本人には知ってほしいし、またこういったことはアメリカだけで起こっているのではなく、いま現在も世界中で起こっているのだということを知る必要がある。
日本では沖縄がまさにその最前線だ。合わせて映画「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」もぜひ観てほしい。21世紀を生きる僕らが何を最優先にすべきかわかるはずだから。
美しい景色や美しい物語の裏には血塗れの歴史がある。