
これまで西川美和監督の作品には注目してきたが、良い作品だなあという印象以上の何かが欠けていた気がしていた。だが、本作「すばらしき世界」でいよいよ突き抜けたと感じられた。
西川の視線は、主人公三上(役所広司)が、なぜヤクザなのか、なぜ暴力を振るわずにはいられないのかという点に注がれる。その視点を劇中で若手のテレビディレクターである津乃田(仲野太賀)に持たせ、主人公の今日に至るまでの足跡を温かな眼差しで丁寧に追っていく。主人公を見守る人間たちとなかなか期待に応えることができない三上。彼を救うものは果たして何なのか。良い意味で映画ファンを裏切るラストは特に素晴らしく、胸を打たれた。
仲野太賀は本作では助演ということになると思うのだが、実に見事な演技だ。主演の「泣く子はいねぇが」でもその存在感は目を見張るものがあった。なんだか印象が薄いのに温度感がある、クセのない素直な演技は、観ている者が感情移入しやすく、作品がもつ世界観に入り込みやすい。これからが楽しみな魅力的な役者だ。