グレイハウンド バス
そろそろこの旅の話も終わりが近づいてきた。でも、その前に数奇な運命の最後を飾るエピソードを書かなければ、終われない。
警官からヒッチハイクの禁止を命じられた僕が、素直にそれに従うほど良い子ではなく、また、簡単に諦めちゃったりする人間でないことは、この話を書いている時点でわかることだ。もしかしたら、命が無かったかもしれない。
「外務省に訴えてやるぞ!俺は日本人だ!」と、訳の分からぬ捨てゼリフと、汚い4文字言葉を吐き捨て、国道を走り始めてから、約20分。どうやら、警官ももういないとわかったので、再びヒッチハイクを始めた。すると、白人の若者が運転するピックアップが止まってくれた!
なんとか交渉して、グレイハウンドのバス停まで乗せていってもらえる話をつけた。
ピックアップは、暗闇の砂漠をひた走る。荷台で見る星空は、信じられないほど美しいが、今、僕の目は時計の針から逸らすことができなかった。
9時。そう、時計の針はもうすでにバスの定刻を過ぎていた。この分では、バス停に着くのは10時過ぎる。
どうしたら良いか、頭はグルグル回る。Windows Rockというバス停には、頻繁にバスが来る訳ではない。次は一体いつなんだろう。果たして飛行機に間に合うのか?
若者たちに礼を言い、誰もいないショッピングモールを横切り、バス停に向かう。すると、僕と同じようにバックパックを背負った若い白人の女性がバス停で腰掛けていた。この人も乗り遅れたのか、それとも次のバスを待っているのか。
「すみません。ここで何をしてるんですか?」
「バスを待ってるのよ。」
そりゃそうだ。バス停でバスじゃないものを待ってる人はそういない。
「何時のバスですか?」
「9時よ」
「やっぱり… え?なんて?」
「9時のバス。もう1時間以上も遅れてるわ。あなたも同じバス?」
この時、僕は神に祈る訳ではなく、会ったこともないインディアンのメディスンマン=祈祷師に、タバコとこの数奇な運命への感謝を捧げた。
いや、本当は時間にメチャメチャいい加減なアメリカ人の仕事ぶりに感謝すべきだったのかもしれない。
なぜなら、バスがそこに到着したのは、2時間以上遅れた11時過ぎだったからだ。
ちなみにそこにいた白人女性は、ブロンドのフランス人だったが、なんのロマンスにも発展することはなかったことを付け加えておく。
最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。あなたにも、素敵な出会いと素敵な旅を。